起きると頭痛がした。それと、膝が少し痛かった。これといって運動もしていないのに膝が痛いとなると、考えられる原因は実質ひとつしかない。インフルエンザだ。最近流行っているらしい、と先日上司から聞いたのを思い出した。
子どもの頃、関節痛がインフルエンザの症状のひとつと知ったときは衝撃的だった。まったく関係ないように見えるものが因果関係にあるということが新鮮で、一発で記憶した。ちなみに、僕自身これまでインフルには1~3回罹ったことがあるが、関節痛になったことがあったかは覚えていない。なかったかもしれない。
だから、今日はどこかで体調が崩れるだろうと身構えていたのだが、結局ずっと調子が悪いだけだった。環境破壊への加担を後ろめたく思いつつ、AIに投げられる仕事はダラダラとプロンプトを打って任せた。既存のデータをもとにたくさん数字が入っている表を作らせた後、「僕が送った指示は処理を行うにあたって十分でしたか、それとも必要以上でしたか」と訊くと、十分だったが、もう少し厳密にしてもよかった、と返ってきた。こういう質問は、人間相手にはしないよなと思う。なぜかと考えるとパッと答えが浮かばないが、相手が同僚なら「わからないことはないですか」と訊くだろう。それも、作業を行う前に。ともかく、一年前はこういう作業を基本的に手作業でやって酷く疲弊していたので、自分の人生をいくらかマシにできた、ということになる。地球に対しては申し訳なく思う。
最寄りの駅で降りて改札を抜けようとしたら、ICが反応せず引っかかった。振り返ると、僕が止まるとは一ミリも予想していなかったのであろう中年の男が、歩行速度そのままに僕に突撃してくるのが見えた。が、どういうわけか僕らはぶつからなかった。その男の不満そうな息遣いが聞こえた。一旦改札から離れようとするとその男の後ろに長い列ができていて、抜けるのに時間がかかった。顔を上げることができず、見えたのは首から下だけだった。やっと改札を出ると、目の前のスーパーで何を買おうとしていたのか、というか、そもそも買おうとしていたものがあったのかも思い出せなかった。寂れた通りを俯きがちに歩いていると、前を歩く制服姿の高校生の肩越しに、大きく開いた口が見えた。真っ黒だった。近づくと口ではなく目で、どこまでも沈みそうな暗くて大きな瞳だった。脇を通り過ぎる段になって初めて、それが黒いタクシーであることを認識した。頭が痛くて、空腹だった。耳の間にはオーバードライブした太いベースがブルブルと震えていて、スマホを見るとMaster MuzikのDream Distortionがかかっていた。


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